2020年02月12日

星新一「空への門」の主人公がまるで今の日本人のようだという話

さっくりネタバレすると宇宙飛行士になるために子供の頃から一生懸命努力してきたが周囲を見下す傲慢な奴がいた
専門コースに進みいよいよ宇宙飛行士になれるって時に高校生の頃の知り合いが誰でも簡単に宇宙飛行士になれる発明をしてしまう
それまでの努力は何なんだという話
技術革新でそれまでの培ってきた職人的技術がまるで意味のないものになってしまう、特に産業革命以来顕著にあることですね
現代ではそのスピードがIT等により加速
プロジェクトXというのを思い出す
職人すごいと絶賛してたけど当時もてはやされた職人で慢心せず新しい技術を取り入れて時代の変化に取り残されなかったのはどれ
くらいいるのだろうか
「自分は優秀!」と思って慢心したら取り残される、慢心せずこの物語の主人公のようにすべてを捨てて頑張ってもその努力してる
もの自体が時代に取り残されることもある
時代や社会を見つつ適切な努力をすることが大事ですな
最近急にこの短編を思い出したわけです
この主人公はその後どうなったんでしょうな
努力家で頭もよくて身体能力も高くてまだ若いし夢が陳腐化したからといって腐らず周囲を見下すのをやめてまた新たな目標追いか
けたのでしょうか
それぞれの読者の想像次第ですが、私はこの主人公ととてもよく似てる日本人そのものに物語の続きを見ることにします


その男は子供の時に宇宙船の乗員になろうと思った。
だれもかれも宇宙へ行ってみたがっていた。月や火星や小惑星。
そんなに遠くまで行けなくても、地球この目で見るだけでもよかった。
だが簡単にはいけなかった。
その乗員になるにはすぐれた頭脳と運動神経の発達した体が必要だった。
どちらかひとつだけを持っている者はたくさんいたが、両方となると少なかった。
それでも数は少なかったがいることはいた。
その者だけが訓練をうけて、宇宙船に乗れるのだった。特権階級だった。
しかし財産だとか情実の入りこむ余地のない本当の実力だけで築かれる地位なので、受ける嫉妬より尊敬のほうが多かった。
小学生のころはどの子供もいずれは宇宙船に乗れるものと思い込んでいる。
男の子は全部、女の子も大部分。
しかし世間を知るにつれこの率はしだいに減るものだ。
彼は中学一年の運動会で一等になった。
その時自分は乗員になれると自信を持った。それから彼の生活が一変した。
放課後の校庭で、毎日遅くまで鉄棒など体操をやった。
運動が長所の級友にも負けまいと努力したのだった。
家に帰ってからは、勉強を熱心にやった。勉強ばかりやっている者よりも、よい成績をとろうとしたのだ。
そのためほかのすべては犠牲にした。
なにしろ乗員にならなくちゃならないんだからな。
なぜ乗らなくちゃいけないのかは、考えなかった。ただ人よりすぐれていることを実証したいだけのことかもしれない。
しかしそこまでは考えない。乗員。乗員。乗員。ひたすら宇宙の入り口をめざした。
高校に入ってもそれは続いた。
級友の中にはガールフレンドと遊びまわる者もいた。ギャンプルに熱中する者も酒を飲む友人も多かった。
だが彼は、そんなことには目もくれない。
宇宙船乗員には害だからな。やつらは乗員になれそうにないのであんなことでごまかしているのさ。かわいそうに。かれは同情した。
彼のうちは中流家庭で、両親はそんな息子のことを心配しはじめた。
小学生のころはかえって喜んでいたのに、このごろは映画ひとつ見ようともしないことをいくらか気にした。
だが注意しても「ぼくは他人とはちがうんだよ」との答えがかえってくる。
両親はその言葉を信用し、見守る以外なかった。
大学には宇宙開発の学科があった。ほかの学科の競争率の三倍ぐらいの受験者があった。しかもよりぬきの志願者たち。
それをけおとして入学するのだから相当な成績をあげねばならない。
一方勉強しすぎて体力が落ちてもならない。彼はついにこの至難のことやり遂げた。
もう目的の大半は達せられた。もちろん勉強も運動も続けていたがまわりを見回す余裕もできた。
貴族になったような気分だった。ほかの学科の連中を見ると気の毒に思え改めて自分の位置をみつめなおすのだった。
ある時街で高校時代の友人にあった。そのころのガールフレンドと結婚して、子供が生まれたとのことだった。
「君にもう子供がいるとは、思わなかったな」
「まあ、ちょっと早すぎた気もするがね」
「いま、大学かい」
「いや、ぼくなんて大学にはいっても仕方ないさ。高校の終わりごろに工夫して作った、はなしても三メー
トル以上の高さにあがらない風船があるんだけどね。伯父さんに見せたらいっしょにものしようといわれ
その会社で作っているんだ。いまその製造関係の部長だよ。よく子供が原っぱでつかまってはねているの
がそれさ」
話し合って別れてからも、彼は得意だった。
むろん気の利いた発明とも思ったし金まわりのいいことも悪くはないと考えた。
しかしまもなく空に飛び出せる自分に比べたらあいつと自分とには三メートル以上あがらない風船と宇宙船ほどのちがいがある。
地上の楽しさはたかがしれている。
卒業式が近づいた。
学内で優秀な卒業論文の発表会がもよおされた。
各学部から選ばれた者の発表だった。
会場のかたすみで彼は聞いていた。
すべての学科は自分たち乗員のためにある。
また自分たちが宇宙から持って帰る資料によってこそ、ほかの学科が進歩するんだ。
彼は幸福の絶頂だった。
壇上では最後のひとりがしゃべりはじめていた。機械学科の学生だった。
見覚えのある顔だなと感じプログラムに目をやると中学校時代の友人だった。
なんだあいつか。あいつは体操が苦手だったな。そうそう一年の運動会でぼくが一等になった時、あいつはびりだったじゃないか。
ぼくはいま宇宙に飛び出して行ける。あいつはその船体を作るほうだ。思えばあの運動会がこれだけの距離を開いたんだ。
運命だな。ぼくはその幸運のほうでよかった。なにしろあれだけの努力をしてきたんだから。
彼はうっとりとしてなにが発表されているかわからなかった。
壇上の学生は「結論を申し上げて終わりとします」と言った。
よし、結論だけ聞いといてやろう。彼は壇上を見つめた。
「以上のような考案に基づいて製作される宇宙船はもういままでのように特殊な能力を持った乗員を必要としません。
どんな平凡な人でもなんの不便も危険も感じることなく操作運転できるのであります」

yakan3337 at 21:14コメント(0) | 読書  

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